January 10, 2021

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 この映画、原題は「ザ・フライ」、蝿だ。

 漢字では間違いなく「蝿」でいいのだが、「ハエ男」としないとピンと来ないかもしれない。

 そういう漢字によるニュアンスというものは確かにある。


 日本語の語感としては「蝿」は生き物としてのニュアンスが強く、たかられる対象物に焦点が当たる。

 「ハエ」というと、不潔とか不衛生である生き物としての具体性が強くなる。

 原題でもそんな怪物へと変貌した人間、フライと言う言葉が恐怖の隠喩として使われたはずだ。

 
 それで日本でテレビ公開された時はカタカナ表記になった。

 蝿は「蝿の王」というウィリアム・ゴールディングの有名な小説があり、それとの混同を避ける意味もあっただろう。

 その「蝿の王」をオマージュして映画「地獄の黙示録」が製作されたと言われている。



 この「ハエ男の恐怖」とまでした題名は余計だったかも知れないが、今で言う海外のサイエンス・ホラー・フィクションに慣れていなかった日本人には仕方がなかったかも知れない。

 日本でのテレビ放送時はウルトラQなど、「怪奇モノ」が全盛だった頃だったが、まだ海外発のサイエンス・ホラー・フィクションはあまりなかったと思う。


 リメイクされた日本で劇場公開された作品からは「恐怖」という文字が取り除かれているのは、その後の時代を映して興味深い。




 考えてみると、この作品のプロットというのはサイエンス・フィクションの王道を行くものだ。

 科学の危険な陥穽を題材にしてそこからホラー色を打ち出したのでもあって、それは今のゾンビや化学兵器のバイオハザードに通じるところがある。


 しかもこれ、古い映画なのでネタばれはお許しいただきたいが、ある意味ではタイムマシン的な部分さえ持ち合わせているというところが素晴らしい。




 我々人類というものはハエを嫌うものらしい。

 敬虔な仏教国ではハエさえ「殺すな」などと諭されるものだが、「生まれ変ってハエになったら嫌だろう」という言い方はされる。

 輪廻カーストからすればハエというのは下の下なのだ。


 これは輪廻転生が信じられている国のことではあるが、生命の値打ちは決して平等というわけではないらしい。


 あの複眼や旺盛な食欲や繁殖力、なんだか人間の理想のような気もしてしまうが違うだろうか(笑)。

 ちなみにハエ男がスパイダーマン的に、ヒーローとして描かれた作品はないようだ。


 複眼で立体視し、感覚が鋭敏になる。それは人間の脳では耐えられないほどの刺激になるはずだ。

 そうして発狂し、攻撃性を持つ、そんなところが暗示されているのも面白い。







(21:05)
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